失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「君の兄さんとあれは似ているな」
"兄さん"と言われ僕はハッとした
「兄貴を知っているんですか!?」
「ああ…最近知った」
男性はソファーにもたれたまま
軽くうなづきながら僕に答えた
「行方不明だとか…」
「はい…」
僕は言い知れない失望を
その言葉に覚えながらそう答えた
この人も兄の消息を知らないんだ
兄の話しが出た瞬間の淡い期待が
また一瞬で白紙になった
「あなたも…兄の消息は知らないん
ですね…」
手付かずの冷めたコーヒーカップを
僕はじっと見つめていた
「わからないわけじゃない」
「えっ…!」
一瞬心臓が止まりそうになった
「ど…どういうことなんですか!」
僕は思わず
ソファーから立ち上がっていた
意味がわからない
知らないのに知ってるって
なんなの?
口の中がカラカラに乾いていて
それ以上声が出なかった