失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
部屋に入ってきた彼は
とても疲れた顔をしていた
僕の姿を見て軽く目を閉じて
肩で息をついた
ホッとしたのか…嫌気がさしたのか
わからないような仕草
まあ…それはいつものことだが
「して良いことと悪いことがある」
とても機嫌の悪い声で彼は
立ったまま男性に視線を向けた
「どうせ私の名前で連れ出したんだ
ろう…目的はなんだ?」
初っぱなから戦闘的な口調だ
「…お前が知らないことも起こるん
だぞ…せっかく保護してやったのに
礼の一つも無いのか」
男性は彼の威圧的な不機嫌さを
まったく意に介することなく
彼を見もせずソファーから答えた
「誰かが県警を騙ってこの子を拉致
しようとした…わかるよな?」
彼の顔色が一瞬変わった
そして黙りこんだ
「……」
「ネズミを追い詰め過ぎたな…あれ
でも噛まれると結構痛いんだぞ」
それを聞いて彼はため息をついた
「ネズミじゃない…ウジ虫だ…」