失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「素直なお前は…ほめるべきだな」
ニヤニヤしながら男性が言うと
彼は更に声を落とした
キレそうだ
「無駄話はいい…この子も疲れてる
早く終わらせよう」
はいはい…と言いたげに男性は
彼にソファーに座るよう手招きした
彼は男性の正面に座り足を組んだ
「この子の今後の身の安全…それに
お兄さんの消息情報を加えよう」
彼は驚いた顔で男性を見つめた
「……本気…か」
「良い条件だろう?」
「それで?…代わりに私に死ね…と
でも?」
男性はじっと彼を見つめた
「出ていけ」
「は…?」
彼は怪訝そうな顔をした
「死にたくなければ国外退去しろ」
僕というカードは
彼と引き換え
そして…兄と…
なんという結末
兄と彼の間で
引き裂かれて
もう死んでしまいたい