失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
見知らぬ海
崖の下から風が吹き上げてくる
目の前に怖いくらい深くて青い海が
広がっている
高い
目がくらむほど
此処から兄は…
足が震えた
「そろそろ行こう…」
茫然と崖から海を見下ろす僕に
後ろから呼ぶ声が聞こえた
そこにいるのは
彼ではない
「……」
僕は無言で振り向いた
「気が済んだか?」
目を合わせずに黙ってうなづく
「行こう…」
彼の父親は車の方へ歩き始めた
そのあとを僕はついていく
車に乗り込む
「大丈夫か?」
「…はい」
車で高速を飛ばして6時間
実家から遠く離れた見知らぬ海に
僕は彼の父親に付き添われて
やってきた
僕は兄に逢う
記憶を失った兄に