失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
車での6時間は長くなかった
彼の父親…公安の参事官という
キャリア組のエリートだったが
彼はその後の事件の概要を
車中で僕に説明してくれた
あの隠れ家での話し合いの日から
今日という日を迎えるまで
2ヶ月余りの日々を過ごした
すぐに動くことが出来なかったのは
兄を陥れた人物が処分されるまで
待たなければならなかったからだ
あの隠れ家のマンションの部屋で
僕は守られて過ごした
それは奇妙で不思議で悲しくて
とても愛しい日々だった
僕は彼と
ほんの少しの時間を
あの部屋で暮らした
彼がこの国を離れ
以前留学していたあの国へ旅立つ
それまでの準備の期間
彼もまた彼を狙う誰かからの
追っ手を避けるため
そして僕を守るために
彼の父親にあの部屋に留められた
それは彼の父親の無言の配慮
だったのだろうか
彼の父親が僕らの関係を
どこまで知っているかは
僕にもわからなかったけれど