失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
崖を離れてから海岸線を走り続けた
この先に
兄が待ってる
僕の知らない兄が…
2ヶ月前のあの日
彼の国外退去の条件と引き換えで
兄の消息が語られた
あの部屋で彼の父親が語ったことは
僕にとって残酷な事実だった
そしてそれは彼にとっても…
「こいつの母親と君のお兄さんの父
親は情報を一部共有していた…あの
女には危険な状況を回避するための
いくつかの方法があったと話したが
その一つが"ジャーナリズムへのリ
ーク"だった…つまりメディアに暴
露するという脅しだ…脅しが効かな
い場合は…あの新聞記者の出番とな
る…抑止力のある情報を特ダネとし
て記事にする…これは他の後ろめた
い女の金づるの誰かにとっても脅し
になる…言うことを聞かなければこ
うなる…という見せしめとしてな」
彼は淡々と語っていった
彼はソファーに深く腰掛けたまま
目を閉じて微動だにしなかった