失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「デリート」
彼はそう呟いてまた黙った
「デリートって…削除?」
キーボードのデリートキーを
僕は思い出してそう尋ねた
「そうだ…入院してしまったために
情報をオンライン上から削除出来な
かった…だから君の兄さんに削除を
依頼したのかも知れない…もしかす
ると遺書に書いてあったのかもな…
突然消されることもある…あの女み
たいに」
「それならお兄さんが削除する時に
ハッキング出来たのも分かる…しか
しそれならIDもパスワードも同時に
ハッキング出来るはずだ…それに奴
らの目的もその情報をデリートする
ことそのものだ…勝手に持ち主が削
除してくれたら手間が省けて大助か
りだろうに…なぜ手に入れたかった
のか…それがポイントだ…」
彼の父親が彼の仮説の穴を突いた
そのとき僕は奇妙なことに気づいた
兄の居場所を知っているなら
それを兄から聞き出せばいいはず
なぜ彼らは兄に事情聴取せずに
憶測を議論しているんだろうか?