失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
彼はテーブルの上の封筒を取り
中を開け僕の前に立った
「見たら…いい」
彼は僕に言った
困惑しながら囁かれた言葉には
彼の優しさが溢れていて
僕は泣きそうになった
「写真がある…半月前の写真だ…見
たら安心すると思う」
彼は僕の横に立ちスナップを一枚
僕に差し出した
僕は怖くて震える手で
その写真を受け取った
見知らぬ海岸の道に
後ろには青い海と水平線
遠くを見てる眼差し
それは
まぎれもなく
兄だった
髪が伸びていた
とても痩せていた
車椅子に乗っていた
だけど…
笑顔だった