失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
父親との異常な関係も
僕との許されない秘密も
あの陰惨な事件も
母の心中未遂も
何もかも
記憶と共に失われ
消えた…?
兄の笑顔を見ていると
記憶の喪失はまるで
桎梏からの解放に思えた
不幸で絶望的な事故ではなく
まるで神さまからの恩寵みたいに
僕の存在の記憶さえ
愛し合った思い出すらもう
失われたのに?
そんなことどうでもいいくらい
切なくて嬉しかった
過去の闇から解放された兄の笑顔は
ありのままで自然で
安らいでいた
そのことが自分でも驚くほど
もう兄貴は大丈夫なんだって
安堵よりもゴールに似た想いで