失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



父親との異常な関係も

僕との許されない秘密も

あの陰惨な事件も

母の心中未遂も

何もかも

記憶と共に失われ

消えた…?



兄の笑顔を見ていると

記憶の喪失はまるで

桎梏からの解放に思えた

不幸で絶望的な事故ではなく

まるで神さまからの恩寵みたいに




僕の存在の記憶さえ

愛し合った思い出すらもう

失われたのに?



そんなことどうでもいいくらい

切なくて嬉しかった


過去の闇から解放された兄の笑顔は

ありのままで自然で

安らいでいた

そのことが自分でも驚くほど

もう兄貴は大丈夫なんだって

安堵よりもゴールに似た想いで





< 333 / 514 >

この作品をシェア

pagetop