失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「うっう…うっ…」

止まらない嗚咽がしばらく続いた

気がつくと彼がとなりに座っていた

足を組み腕を組み目を閉じて

慰めるでもなく放っておくでもなく

ただとなりに




「ありがと…う…写真…」

しゃくりあげながら彼に感謝した

「幸せそうなんだ…今までみたこと

…ないくらい」

「…そうか」

彼は少し脱力したような声だった

「すぐに会わせられないのは申し訳

ないが…まだ片付いていないんだ…

内々で処理される可能性が大だがそ

れは仕方ない…上は後腐れなく処理

される方を取るだろう…兄さんの一

件は事件としては取り上げられない

…それ以外には上手くは収まらんだ

ろう…」

「構わない…よ…兄貴が解放される

なら…」

それが兄や僕たちや家族にとって

どんな生活になるのか

見当もつかないけど…

「…君は勧善懲悪を望まないのか?

…若いのに…」

「か…カンゼン…チョーアク…?」

知らない言葉がまた彼の口から出た

「悪は滅ぼし正義が勝つように…と

いう意味だ」

「ああ…そうなんだ…」

僕は兄を苦しめた奴らへの感情を

心の中に探した

兄を苦しめ…家族を引き裂き

僕の心を押し潰した者への憎しみを





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