失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
(誰の意志をも超えて
因果の収支が釣り合わせられる)
また…その言葉が頭の中に響いた
思わず僕は彼を見上げた
「インガのシュウシが釣り合
わせられる…」
彼は驚いた顔をして僕を見た
「…驚いたな…勧善懲悪も知らない
バカな子の言葉とは思えん」
「どういう意味かは…はっきりわか
らない…でも…やったことは返って
くるってことはなんとなくわかる」
「因果応報というんだ…経文でも読
んだのか?」
キョーモンは読んでない
「頭の中で…言葉が響いたんだ…な
んかがたまに…なんか言う…」
「おいおい…幻聴か?…マズイな…
クスリやってからか?聞こえ出した
のは」
「違うよ…高校の頃からだよ」
「…天然か…参ったな」
確かにオカルトな話だ
「ごめん…電波なこと言って…」
「いつもか?…常に頭の中で誰かの
声がしているのか?」
「ううん…たまにするだけ…それは
あなたと最後にホテル行ったあとに
聞いた…」
僕は省略した部分を付け足して
もう一度彼に言った
「誰の意志をも超えて…因果の収支
が釣り合わせられる…」
兄の笑顔…
「僕には…善と悪の分け方が…分か
らなくなってきちゃった…僕は憎む
べき…なんだよね…あなたにまた…
怒られるよね…偽善者だって…」