失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



心が引き裂かれそうな痛みが走った

その兄を僕は引き戻そうとした



(お前を解き放つんだ…俺から…)

兄の声が耳の中で響いた

(そして俺が本当に恐れていたのは

…俺がお前を手放せないことだ)



「では…これが?…これがあの教会

の…祈りの答え…」

脈絡のない僕のその言葉に

彼は不思議そうな顔をした

「あの…神父の教会か?」

「そう…あなたの幸せを祈ったとき

僕たちは互いに互いの幸せを祈った

…僕は兄貴が自分を裁くのが耐えら

れなかった…自分の断罪じゃなくて

天が決めたことに従って欲しいと…

そう願った…僕たち…別れようと決

めてた…でもそれで兄貴は苦しみ抜

いた…僕を…手離せない…って…」

また涙が伝った

「懐かしい…君と私もそれを聞いた

日に別れたんだ…君が兄さんを解放

したと言った日にな」




そう…本当の幸せを…祈っ…た…



「その結果が…これ…なのかな…」

互いに互いを手放せそうとして

あの時できなかったそれを

こうやって…完全に

…リセットして




兄の笑顔…




「願いが…叶ったのか…な…」

とめどなく溢れてくる涙

「逢えば…わかる」

彼は目を細めた

「早く逢えるといい…」



そう言うと彼は諦めたように

もう一度僕を自分の胸に抱き寄せた





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