失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



「あの…さ…」

パソコンに向かう彼に

僕は遠慮がちに話し掛けた

「いま…話してもいい?」

「ああ…なんだ?」

「僕がアル中になったのって…親父

とケンカしたから…だったって…僕

あなたに話した…かな…?」

「いや…聞いてないぞ…」

やっぱり話していなかった

「…というか君がアル中になったの

は兄さんの失踪が直接の引き金じゃ

なかった…ということか?」

彼は少し驚いたように僕に尋ねた

「…違うんだ…親父と口論して…そ

れからなんだ…忘れてた…多分…思

い出したくなくて…」

彼からは叱られることもなく

会話に少し間があり

彼が何か考えながら僕に質問した

「口論…とはどんな?」

「親父が兄貴探してもらう興信所を

僕に黙って変えたんだ…」


僕は興信所のいきさつを彼に話した

担当者とのことや父親の精神状態

そしてあの日のケンカの様子を

「怒りに…身体が震えた…あんなの

初めてかも知れない…兄貴の父親に

も激しい怒りを感じてた…僕にとっ

てそれが一番激しい怒りだったはず

なのに…でもさ…親父に感じた怒り

って…ぜんぜん違ってて…」

僕は記憶をたどりながら

あの日の激情を思い出そうとした





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