失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「だが…不思議だな」
彼は椅子の背に寄りかかり
腕を組んで僕を見た
「君はなぜ守ってくれる立場の親を
逆に守ろうとするのだろう?…そん
なにボロボロになってもまだ君は親
御さんに対してまるで保護者のよう
に振る舞う…かなり年上の兄さんに
対してもそうだが…なぜなんだろう
な…」
守ってくれるはずの立場…?
僕にはその言葉に意表をつかれた
彼の言うことは当たり前のことで
世間的にはまったく矛盾のない話だ
なのに僕は…
そんな視点で家族を見たことが
今までなかった
いや…なかったことに今気がついた
じゃあ…僕は今まで
どんな風に感じていたんだろう?
「僕は……みんな…を…」
僕はなにを思ってたんだろう
小さいときから幸せな家族だと
ずっと思ってきた
兄貴との秘密さえ隠し通せば…
それだって小さい頃はこんなには
苦しんでいなかったはずなんだ
もっと単純で…無邪気な秘密で…
「思い出してみたまえ…君はどんな
風に君の家族を見ていた?…幼い君
が意識を持ち始めたとき…彼らはど
んな様子だった?」
「意識…?」
僕は彼の言う意識という意味を
すぐには理解できずに問い返した