失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「そう…君の意識だ…産まれてから
しばらくして周りに誰か居ることを
知った君はそれが家族だと認識し始
めた…君には家族はどう見えたか」
「そんなの…覚えてないよ」
僕がそう言うと彼は話を続けた
「それがそうでもないんだ…人の記
憶はちゃんと蓄積されていると言わ
れている…思い出せないだけだ…そ
れは記憶の中に映像化されて残って
いる…感情と思考の思い出せる限り
のイメージを思い出すんだ…どんな
風に君が見ていたのか」
イメージ…と言われ
僕は記憶をさかのぼった
小さい頃…僕はなにを見ていたのか
見ていた…?
いや…違う
僕はある印象を思い出しかけていた
でもそれは見たんじゃない
それは視覚ではなく
それは
それは…
(…け…て…)
そのとき僕の頭の中に
誰かの声がした
…聞こえてた
そうだ
僕は聞いていた
しかもそれは耳で聞いたんじゃない
直接頭の中に入ってくる音
みんなの…沈黙の声
心の叫び…だ
それは…そう…
耳をふさいでも入ってきた
だから僕は
その怖い言葉を消したくて…
「声…だよ」
「…声?」
彼も不意をつかれたように
僕に聞き返した