失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
なんで忘れてたんだろう
僕はずっと聞いていた
それも
産まれたときから…ずっと?
そんな気さえする
「映像じゃ…ない」
「…音か…」
僕はうなづいた
彼は少し黙った
「人とは…多様なものだな…」
呆気にとられたような彼の顔に
僕は少し不安になった
「声でも…いいの?」
「ああ…問題ない…いや問題は私の
先入観だ…参ったな…だから君は面
白いんだ」
「よかった…」
「思考は不自由だな…固定化されて
君みたいなバカな子に蹴られないと
動けない」
「バカは…余計だ…」
僕は少しムッとした
「…それで?」
彼の問いかけは続いた
「君はどんな声を聞いたんだ?」
「頭の中に…家族の声が…直接聞こ
えてたんだ…変だけど」
「またか…テレパシーだな…神だけ
じゃなくて人の心の声も聞こえるの
か…参ったな…」
「もう…人の声は聞こえないよ…て
いうか忘れてた…いつからかわかん
ないけど」
「そうなのか…まあいい…注目すべ
きは君が何を聞いたのか…だ」
「…怖かった」
「怖い…?…何をだろうか?」
僕は…何を怖がっていたんだろう?
(知りたくない)
僕の中のなにかが拒否反応を示した