失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
知ってたことを
思い出した
あのざわざわした悪寒
そしていくつものショック
二度と感じたくないと思っても
不思議じゃない
ほんとはあの時に僕は
叫びたかったんだと思う
でも僕は父のために
兄のために叫ぶことをしなかった
愛してたから
ふたりを
みんな苦しんでいたから
だから僕は記憶ごと封印した
嫌悪感も寒気も恐怖も
僕のパニック障害の本当の原因は
これかも知れないと思った
僕と兄の関係を
父にバレることをいちばん恐れてた
でも父は知ってたのだ
でももっと恐れていたのは
父のほうかも知れない
兄と家を出た時に
母がせざるを得なかった行為を
父も同じようになぞっていた
母はそれで自殺未遂をし
父に助けられ
その父は僕を身代わりにした
父も母も互いに兄との秘密で
苦しんで
そして僕も…
こんな重荷を背負って
僕たち家族は一見ふつうに
暮らせてこれたのかと
僕は今さらながらに驚く
これを父から聞ける日は
来るんだろうか
そのとき僕がこれを聞ける勇気は
あるんだろうか
思い出した記憶を父に告げるのは
僕には無理だと思った