失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「夢の中で親父は僕と目が合った…
僕は布団に寝かされてた…親父は兄
貴に囁いた"兄ちゃん…お前の弟だ
よ"って…それからは兄貴は僕の方
に寄ってきた…僕は兄貴に心の中で
言ってた…お父さんが困ってるから
…僕と…しよう…って…」
自分でそう言いながら
とても切なくて悲しい気持ちが
胸に込み上げてきて
最後は言葉にならなかった
「それから親父さんは解放され君が
兄さんの愛を一身に受けるように
なったわけだ…だが君は父親の身
代わりになることを許したんだな」
「そんな歳じゃ身代わりなんてわか
らないはずなのに…ね」
「いいや」
彼は首を横に振った
「子供はわかっているのだよ…難し
い言葉ではなくただ根元の気持ちを
ね…それは正しい見解なんだ…対処
する方法はともかくとして」
「そんなこと…ファンタジーみたい
だけど?」
「それがそうでもない…学術的にも
データはあるし統計もある…君は聞
いたことはあるか?…母親の胎内で
聞いたことを生まれてからも覚えて
いる…という話を」
「いや…ないよ…初めて聞いた」