失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




それは初めての話だったが

僕には思いあたる

やはりあの恐怖の声は

産まれる前から僕には

聞こえていたような気がするから

「でもわかるよ…僕も親父のあの声

を産まれる前からずっと聞いてたっ

て思っていたんだ…なんの根拠もな

い話だけどね」



長かったろうな…親父にとって…

僕は父の気持ちを想像し

苦しくなった

誰にも言わなかったんだね

必ず夜に酒を飲むのも

そのせいなんだろうか?



そのとき僕はハッとした

僕と兄の関係を

親父は知っていたんだと

バレなかったんじゃない

父が知らないふりをしてただけだ



なんなんだよ…

この秘密のせいで

すべてが苦痛に満ちていたのに

死まで思ってたというのに



親父…あんまりだよ…



誰にどう当たっていいかわからない

信じがたい事実によって

僕の秘密が変質していくのが

僕には信じられなかった

僕たちの残酷な秘密を

もう一つの凄惨な秘密が飲み込んだ

身体から力が抜けていく

安堵と果てしない徒労感が

僕を襲った





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