失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




初めて爆発した怒りは

自分でも驚くほど凄まじかった

今までどれだけこの感情を

抑圧し続けてきたのだろう

僕の怒りを爆発させたのは

兄と約束したあの秘密が実は

秘密ではなかったと気づいたからだ

誰にも知られてはならないという

命にも等しい束縛は僕にとって

どのくらいの重さがあったか

自分でも計り知れないものだった



その絶対的ともいえるような

《秘密》というルールが壊れたとき

僕に大きな怒りがあったことを知る

簡単に殺意に転化するほどの

膨大な憤怒が




そんな僕を彼は安心したかのような

満足げな顔で見守っていた

なぜか僕が怒りを爆発させ

殺意をわめきベッドのマクラに

怒りの鉄拳をぶつけていても

困りもせずむしろ楽しげだった

それどころかキッチンの包丁を

僕に微笑みながら握らせてくれた

「これが良い!殺傷力が高いから殴

るより爽快感がある…ただし自分を

切るなよ…切ってもいいが…そう…

血塗れの君を犯す…それも良い…」



僕は生まれて初めてマクラを殺った

マクラの羽毛が寝室に舞い散った時

僕の青いフェンダーの爆音が

不意に耳の中で鳴った



(なにもかも壊れてしまえ)

そんなことだけをぶつけて

殴りつけるように鳴らしたギター



殺意だったんだ

僕が弾いていたものは






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