失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
兄が
消えた
それは全く唐突に
まるで
風にさらわれたように
忽然と消え去った
僕を残して…
その日珍しく
兄から昼にメールが入った
『出張が急に決まったので、何日か泊まりがけになる。詳しいことは後で話す。携帯繋がらないかも。親父たちにも伝えておいて』
兄の
アパートのPCから発信されていた
僕が高校3年になると同時に
大学院を卒業した兄は
希望通りにそこの研究所の
助手になっていた
研究を続けながらいずれ
講師から準教授そして教授にと
行ければ良いけどね…
そんな風に兄が話していた通りの
順調なスタート
学会なんかで出張することも
たまにあったし
僕との間も仕事が忙しくなっても
大事にしてくれていて
その翌年僕は高校を卒業して
音響の専門学校に入学した
ヤツも同じ専門学校に入学
作詞・作曲やアレンジの学科を
専攻していた
その学校にも慣れ
夜にライブハウスでバイトも始め
数ヶ月が過ぎようとしていた
夏の始まりの頃だった
終わったはずの悪夢が
唐突に
再び始まった