失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




それから毎日が

彼のレポートの作成に追われた

噴出した怒りのエネルギーが

書くことに化けてくれた

と言っても過言ではない

自分の人生を振り返ること

…まだ短い年月だけれど

こんなことでもなければ

やることもあるはずもなく

やる時間もないはずだった

今は動機もその時間も

十分過ぎるほどあった

幸運だとつくづく思った




ある日の昼下がり

彼が僕にコインをくれた

これを投げてくれ…と

裏ならこの紙を開け

表ならこちら

私が答えを操作していないことを

予め君にわかってもらっておく

嫌な予感がした

でももうこれは止められないんだね

それがなんとなくわかった

有無を言わせないいつもの

彼の無言のプレッシャー

本気なんだ

でも彼はこう付け足した

「君の神に…願ってくれ…真実をな

してくれと」

まるで神を試すように



僕は目を閉じた

(あなたに任せます…神さま…僕と

彼に真実を)

なにを尋ねられているかも聞かずに

僕は彼に手渡された10円玉を

そのまま宙に放り投げた



落ちてきたコインを受け止める

握りしめた手を開くのが怖かった

















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