失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「表…だ」

僕は開いた手の中を見て

彼に告げた

「ではこちらを開こう」

彼は“表”と書かれた紙を開き

僕に見せた



“言う”



そこには

《言う》とだけ書かれていた



「そうか…わかった」

と彼は諦めたように言った

「なにを聞けばいいの?」

僕が言うと彼は僕をじっと見た

切なげな目を見ていたら

彼がなにを言い出すか

それがわかってしまうくらい



「行くんだね…」

「ああ…さすがだ…察しがいいな」

「犯人…確保したんだ…」

「そうだ…ようやくな…君ももうす

ぐ解放される」

「…裏だったら…言わないで行っち

ゃったんだ」

「言わないで行こうと思っていた」

「そんな…」

「だから…君に任せた」

「…そう…だったね」

「神は私よりサディスティックなん

だな」

「…違うよ…それは違うよ」

「言ったら君が壊れそうで…」

「違う!…僕はもう…ひとりで立て

る…ひとりで…」

「こんなに泣いていても?」

「そうだよ…泣いていてもだよ」




とうとうこの日がやってきたんだ

こころから感謝を

あなたに

神に



僕はもう…ひとりで立てる

たとえ

泣き崩れたとしても









< 401 / 514 >

この作品をシェア

pagetop