失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
ひとりで立てる
と言ったからにはね
僕の気持ちが奈落の底に
落っこちていくけど
大丈夫だよ
寝ているうちに出ていった
彼のいない部屋が
凶器みたいに僕に突き刺さって
痛くて死にそうだった
しばらく死んでいていい?
それくらい許してよ
なにも言わずに出ていくより
きっとマシだったって
証明するよ
ひとりで立てるからには
ひとりで死ねるんだ
また…行っちゃった…
1度目の別れより
2度目の別れのほうが
…悲しい…のかな
彼のデジタルプレーヤーだけが
再び僕の手の中に残った
ヘンデルの“私を泣かせて”が
いつのまにか追加されていて
僕の耳の中で響いていた
ギターが弾きたいな…
壁にもたれながら
立ち上がる気力もないまま
ぼんやりと僕はそう思っていた