失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】

失ったふたり





彼を失ったふたりが

車で旅をしてた

僕の悲しみが父親である彼にも

わかっていて

一度心をつなげた親子が

ようやく出会った時間を

すぐに手放したその切なさを

僕は自分のことのように

悲しかった




「私は君に感謝してる…あいつと逢

わせてくれたのは…君だ」

彼はそう言った

でも僕もですお父さん

あなたがいなかったら

あの人は存在しなかった

たとえ報われない女性との

後悔に苛まれた行為だったとしても




「いえ…あの人を僕と逢わせてくれ

たのが…あなたです」




人の世はいつもそうだ

なされたことすべてが

どんな意味を持つのか

それをした時には

誰もわからず苦しむ

だけどそのすべてが

なにかをまっとうする

パズルのひとつのコマだったって

いつか気づかされて…



そう…母とあの男みたいに



そう思ってふと気がついた

兄とあの人は似てるんだ

悪意と愛の中で生を受けて

傷ついて…求めて

それでも人生は愛しい

愛しいんだ

そんな葛藤の中でさえ



僕の空虚な心の中を

いまは涙と愛おしさで

いっぱいにして







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