失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
消毒液の匂いの中
また死にそうな緊張の中で
大事な人に病院へ逢いに行く
兄の父親に会いに行った
“賭け”みたいな日を思い出す
こんなとこまで似なくていいよ
兄貴…ほんとに
また僕はベッドサイドなのかよ
緊張しすぎて心の中で
思考が脱線してる
なにを話すんだろう?
なにを言われるんだろう?
どんなふうに感じるんだろう?
ドスッ…
「す…すみません…」
先を歩く彼が止まったのもわからず
背中に顔から突っ込んでいた
「だ…大丈夫か」
「ああ…はい…ごめんなさい」
「ここだよ」
え…
もう…?
胸の中で心臓がドクッと
変な飛び上がり方をした
彼がノックする
コンコン…
「はい…」
ドアの向こうから返事が聞こえた
それは
兄の声だった