失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「自分を責めないでよ…」
立ち上がることのできた僕は
泣きながら兄に言った
「いつもそうなんだ…兄貴は…」
それを聞くと兄はフッと微笑んだ
「ようやく声が聞けた」
兄は少し照れくさそうに
僕から視線を外した
「いつしゃべってくれるかって」
そして付き添いの彼の方を向いた
「すみません…弟とふたりきりで話
したいんですが…いいですか?」
いきなりの言葉に僕はとまどった
二人きりになったら
僕…なにするかわからないよ
だが彼は軽く頷いた
「そうでしょう…わかりました…心
置きなくゆっくり話して下さい…」
「待って下さい…僕…」
僕は小さな声で彼を留めた
「いいんだよ」
「でも…僕は…」
「それでも…いいじゃないか…自分
を信じろ」
彼は僕の背中をポンポンと叩いた
「あの…でも…」
そう言う間もなく彼は病室から
あっけなく出ていった
追ったがドアを閉められてしまった
部屋には僕と兄の二人きりになった