失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
あまりに予想外の言葉に
僕はどう答えていいかわからなかった
どうしよう…
僕は知らないふりをするべき
なのか?
「な…なんでそう思うんですか?」
口をついたのはそんな問いだった
「いろいろ…あったんだ…君に話せ
ないようなことがね…それに…」
「それに?」
「夢を見た…男に抱かれてる夢…で
も夢の中でも…夢から覚めても…私
にはふつうの感覚だった…それらを
総合するとね…私はゲイだったって
…確信してる…どう?…君の知って
る私には彼女はいたの?それとも彼
氏?…それとも君は知らなかったの
かな?」
もう決断したことが瓦解しそうに
なりかけてる
こんなに唐突にこんな核心を
訊いてくるなんて思いもしなかった
冷や汗が脇の下を流れた
これを言ってしまったら
僕はどこまで隠しおおせるんだろう
なにを言ってしまうんだろう
止めてくれるはずの彼はいない
何かを言おうとして口を開けたまま
僕はでくのぼうみたいに
つったっていた
「当たり…だね」
兄は笑った
「答えてるのと同じだよ…でも言え
ないよね…ごめんね」
どうしたら…いいんだ…ろう…
パニックになりそうだった