失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
それから兄は僕をチラッと見た
「君に言わなきゃならないことが…
ある」
淡々と兄は話した
「なにを?」
「私の今の病状のこと…君は聞いて
いないだろう?」
それは記憶障害のこと
そう思った
「うん…詳しくは知らない」
「私から話したくて警察の人には口
止めしておいたから」
なんのことかは想像出来なかった
「あのね…私の両足はね…いま麻痺
していて歩けない」
不意打ちのような事実に
息が止まった
「……なんで」
それで…車椅子に…
兄が次の言葉を少しためらった
「崖から落ちたのが…原因?」
あの崖を思い出して僕は震えた
神経とか脊椎の損傷なんだろうか
僕が自傷して指が麻痺したみたいに
「会ってすぐなのに…したくない話
だけど…聞いて欲しい…」
「な…なに?」
ザワッとした
「じつはね」
いや…だ…
「原因は…脳腫瘍なんだ」
見てるものすべてが
グルンと大きく回った