失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
冬の日は短かった
夕暮れは更に寒く
僕は錯乱と狂気に心を抜かれ
知らないうちに店の中に
ぼんやりたたずんでいた
「あれ?今日シフトだったっけ?」
店長が近くまで来てるのを
気がつかなかった
「あ…え…シフト?」
「なんかボケッとしてんだな…確か
明日じゃないか?」
「そう…でしたっ…け」
もう客がだいぶ埋まってきてる
ライブはすぐに始まるようだった
「間違えたな~」
店長は笑って僕の頭をつついた
「あ…はい」
「おい…久しぶりに仕事無しで聴い
ていけよ…今日のバンドは良いぞ…
終わりに掃除してけよ…それでチャ
ラにしてやるよ」
店長はミネラルウォーターの
新しいペットボトルを一本
僕に持たせてくれた
「あの…すいません」
「早く前に行けよ!」
僕は言われるままに
ゆらゆら客席の端を壁沿いに
歩いていった