失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「愛されて…た…私が…」
すべての緊張を投げ出したみたいに
兄は背もたれに身体を埋めて
宙を眺めていた
流れ落ちてくる涙もふかないで
「僕だけ…じゃない…母さんも親父
も…どれだけ兄貴が見つかるのを待
ち望んでたか…」
兄は放心したようにつぶやいた
「いなくても…いいと…この世にい
なくてもいいって…思われてるんだ
と確信してたのに…」
「ありえない!そんなことありえな
い…だって…」
僕の命より大事だったんだ
そう言ってしまいたかった
「優しくて…頭が良くて…家族を大
事にしてくれて…仕事でも求められ
てて…ようやく…見つけたのに…よ
うやく逢えたのに…そんなの…あん
まりだ…ひどす…ぎ…る……」
それを聞いて兄は両手で頭を抱えた
「私は…治療をすべて断った…死を
望んでいたんだ…それなのに…こん
なに悲しむ家族が私にいたな…ん…
て」