失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
その瞬間
僕は兄のベッドに駆け寄り
両手でその手をつかんだ
「お願い…お願いだから…手術を受
けて!」
だが兄は悲しそうに首を横に振った
「ごめん…もう…遅い……」
「なぜ!?」
「私は…死を受け入れてしまったか
ら」
「どう…して…?」
「私には…もう生きる理由が…ない
んだ」
「僕達が…いても…?」
それを聞いた兄は
しばらく黙って僕を見つめた
そしてこう言った
「ごめんね…こんなこと…君にはほ
んとに言いたくないんだけど…私は
ね…もう君が知ってる君の兄さんじ
ゃ…ないんだよ…」
僕は兄の手を離した
兄の言葉は優しかった
でもそれは僕の心にとって
致命的な言葉だった