失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
兄貴
記憶を取り戻したら
死をとどまってくれるの
僕と愛し合ったこと思い出したら
僕のためだけに生きるって
そのとき僕に言ってくれるの?
そうすれば
もう一度生きるって
思い直して…僕と…生きて…
それが
言えないんだよ
僕には
僕には
今の僕には
言えないんだ
兄貴
あの笑顔を兄貴から奪うなんて
透明な光みたいな
微笑みをまた失わせるなんて
僕はしばらくベッドの脇に
たたずんでいた
そのとき僕は聞きたいことが
心に浮かんできた
僕はその問いを
そのまま兄に問いかけた
「兄貴…いま…兄貴は幸せ…?」
声がかすれてうまく出なかった
でもその問いを
僕は喉から押し出した
その答えが僕の答えになる
僕はそう思った