失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「兄貴は…いま…幸せ?」


そうだよ

生まれた時から

僕が願い続けてきたことだ

泣かないで

苦しまないで

自分を責めないで

幸せになって

兄貴が心から笑えるように

僕は祈ってた

ずっとずっと

だからいま…いまだから訊くんだよ



「おしえて…ください…僕に」

兄は静かに答えた

「幸せだよ…そして自由だ」




その答えを聞いて

僕ははっきりと悟った

僕はもう

あなたには必要ない

そうなんだね

あなたが泣き崩れるのを

もう見なくていい

鳥はあなただった

だからもう

飛んでいってしまうんだね

誰の手も届かない

空の彼方へと



「そう…あんしん…し…た…」



神さま

やっぱり祈りは届く





ああ

だけど

ねえ…僕は?

僕はどうしたらいい?

あなたをこの世から失って

僕はそれから

立ち上がれるの?




「君は…だれ?」

そのときとても不思議そうな顔で

兄は僕に聞き返した









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