失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「君は…ほんとに私の弟なの?」

「そう…だよ」

ほとんど震えるような声で

僕は答えていた

「…ううん…違うよね」

兄は静かに否定した

「違う…君は弟じゃない…君は…」

「弟だよ…間違いない」

僕はその後に続く言葉をさえぎった

「なぜ疑うの?…戸籍でも何でも調

べればいいよ」

「私に会うために弟と…偽って…」

兄は首を横に振った

そして少し苦しそうに言った

「ごめん…いまのは忘れて…私が…

変なんだ」



どうしたんだろうか?

さっきの兄と少し違う雰囲気だった

「そうだね…見たこともない人間が

いきなり現れて『弟』だって言って

も…困るよね」

「違う…そんなんじゃないあの…」

兄はなにかを言いかけて息を飲み

困ったように目を伏せた

静かだがその表情は

さっきの穏やかさではなかった 

「ごめんなさい…小さい時の写真

でも持ってくれば…」

僕がそう言うと兄は僕の顔を

じっと見つめた

「なぜなんだ?…なんでそんなに君

は切ない目をして私を見るんだ?」




すべては儚い希望

嘘をつき通すことすら

許されないのなら









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