失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




「驚いた?…僕も同性しか愛したこ

と無い…兄貴と一緒…その上兄貴を

好きになった…異常だよね…気持ち

悪いでしょ…そう思ってくれてもい

い…もう会いたくなかったら拒絶し

てもいい…でも…切ない顔くらいさ

せてよ…僕を置いて…逝っちゃうん

だから…もう…どうせ…二度と逢え

ないんだから!」


もういい

もうどうなっても

なんでこんなこと

隠しても無駄

嫌われてもいい

どうせ届かない

なんにも届かないんだ



兄はじっと黙っていた

その顔が悲しげで

僕は少しとまどった

そうだよね

こんなこと言われて

困るよね

ごめん

僕が悪いんだ

取り繕えもしないで

こんなこと吐き出して

最低だ



言ってから後悔する

いつもいつも同じことの繰り返し

平穏に死にゆく人のなにを

壊そうとしてるんだ僕は

最低だ

ほんとに最低だ

唇を噛んだ

兄から顔を逸らしていた


ごめん

もう…帰るよ

僕はまた兄貴を困らせてる

いないほうがいい

ようやく自由になったのに

僕が邪魔してる



そうしたほうがいいと

心の中で決めて僕は

兄にそれを言おうと口を開いた

「あに…」

「君…」

僕達は同時に話しかけていた





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