失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
兄をこんな風に見ていてくれてた
そんな人が居てくれていた
兄の傷ついた身体を治し
そして自死を止め
異常者の手から兄を救い出して
ひとりでに胸が熱くなった
兄の闇の中に救いがあったことが
そしてあの人のことを思い出した
僕を助け出してくれた彼を…
この先生と彼が不思議に重なった
「僕も…いろいろあったんです…兄
が失踪してから…」
ほんとに簡単に
ほんとにざっとこの一年を話した
この先生には言っておきたくて
言えないようなひどいことは
さすがに言葉を濁しながら
それでも僕の話を聞いた先生の顔が
だんだん暗くなっていくのが
僕にもわかった
言わなきゃよかったかな
少し後悔した