失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




気持ちの変化というやつが

もしあるんなら

こんな感じなのか…

と僕はその日を境に変わった

“なにか”を体験した



諦めでもないし

開き直りでもないそれは

僕がいままで味わったことのない

気持ちの変化だった



なんでかな…

それは不思議な気分だった



いままでなら誰かを支えきって

その人の苦しみを肩代わりする

そんな不可能な理想に向かって

もがき苦しんでいた

でも今はその執着が希薄だ

兄だった彼を僕は愛し続けてる

いまだにそれは変わらない

呆れてしまうほど僕の中で

あの人は愛しい

でもあの人自身を差し置いて

僕が彼を支えようとは

なぜか思わない



やっぱり

愛されてないから…かな



そうかもしれない

あれほどの兄から受けた愛が

いまはすっぽり抜け落ちている

そんな僕と彼の関係の中で

どれだけ一方的に愛していても

支え抜く気持ちになれないのは

ある意味当然のこととも思えた



冷たくなった…のかな

突き放せるって

この僕が…さ



突き放したんだろうか?

僕が突き放したのは彼?

それとも…もしかしたら

自分を?

駄々をこねても良かった

彼の時間に僕を割りこませて

僕の存在を認めてもらっても

それでも兄…いや彼なら

拒まなかっただろう…きっと






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