失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




それでもそれが嫌だった

曖昧な気持ちで過ごす時間…

そんな時間はもう彼には

過ごして欲しくない

過ごすべきじゃない

忘れ去ってしまいたい事実を

いつも突きつけられながら

僕は次の一歩を決めなきゃなんない



兄の時間がもう少ししか

残されていないっていうことを



その壊れそうな悲しみに見合うのは

“出来うる限りの最高の決断”

それを僕だけじゃない

彼にも願っている

そうじゃなければ報われない

互いに手を抜いた途端

それは穢されてしまう

彼の生きた時間すべて

そして

僕が自分自身を投じて賭けた

その年月…その気持ち…

その愛が



そこまで思って

少しがっかりする

この思いにもまた…見返り

そう僕の費やした労力に対する

神からの見返りが欲しい

…そんな欲望に満ちてるって



でも心底思う

もう思い残すことがないと言った

兄であったあの人は

そう言った時とは違う状況で

飛び去るまでの時間を過ごす

僕達というピースが期せずして

彼のパズルを埋めたとき

そこにはどんな風景が

描かれていたと知るんだろう



空が高い

ひっそりと誰もが歩き話す

そんな秋の深まる冷気の中で

僕もそんなことを思う



淋しい

それでも淋しいよ

あなたに逢いたくて



あなたにも…そしてあなたにもね

二人の愛する“あなた”に…








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