失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




電話を取ったのは母だった

「はい…もしもし?」

相手がなにか話してるのだろう

「え…?」

母の顔が次第に驚いた顔に

変わっていくのがわかった

そして母はソファに座っている僕を

じっと見てそして切れ切れに言った



「…お兄ちゃん…あなたに…って」



母が受話器を僕に差し出していた

「あ…兄貴…?」

なんで“彼”が僕に?

「そうよ…早く出て」

あまりに唐突だったその電話に

僕は呆然としていた

「なにしてるの?替わってよ」

母の声も茫然としていた

はっと我に返った僕は

ソファから落ちそうな勢いで

電話に駆け寄り受話器をもらった



「も…もしもし…」

「居たんだね…良かった」

「どうしたの?なにかあったの?」

兄から電話があるときの条件反射で

僕は非常事態を想定して聞いていた

「なにもない」

「…ああ…良かった…」

背中から汗が出ていた

でもなんでなにもないのに?

「ごめん…話していい?」

「僕…に…話があるの?」

「うん…さほど大したことでも…な

いんだけど」

いつもより少し緊張してるみたいな

彼の声だった

「なに?話してよ」

なんでもいいから喋って欲しくて

僕は彼の先をうながした



「あのね…」

「うん」

「淋しい…」



それを聞いて一瞬

頭の中が痺れた














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