失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
「悪いね…また変なこと言ってる」
彼は少し笑ってるみたいだった
「変…じゃないよ」
「そっか…そう言ってくれると助か
るよ」
「どこから電話してるの?」
「病院のラウンジの公衆電話」
「そう…お金まだ切れない?」
彼の手元に小銭があるかどうかと
ちょっと心配になった
「カードがあるから」
「ああ…じゃあ大丈夫だね」
「ごめんね…なんでもないんだ…で
も淋しくて…声が聞きたくなった」
「僕の…?」
「ああ…君の声」
彼は少し沈黙してまた繰り返した
「…君の声だ」
「そう…なんだ…」
僕はなんと答えていいか戸惑った
「あの…もう…ほんとに…ここには
来ないつもりなのかな?」
と彼は遠慮がちに僕に訊いた
「…あなたが…僕に気を遣い過ぎて
て…不自由じゃないかって…」
僕は帰りの電車で考えたことを
そのまま言った