失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
飛び飛びで曖昧な記憶の中で
僕はカウンターで
耳をなぶられていた
回りの客はフロアで踊り始めた
トランス系の無機質で
単調なリズムが
フロアに鳴り響いている
僕が拒まないのを確かめてる
僕は自暴自棄を少し越えて
気を失うのを望んでいた
耳元でささやくふりして
そいつはライブハウスの時みたいに
僕の耳に息を吹きかけた
耳が弱いのがもうバレてる
「ねぇ…君…」
「あ…」
「感じるの?」
「…ん」
息が早くなる
腰の手がだんだん下に降りてくる
太股に手を這わされ
僕の身体がまたピクンと反応する
「敏感だなぁ…君って…やっぱり」
そいつは僕が逃げないことを
確信したみたいだった
「どう…?いつもより良い?」
目の焦点が合わない
酒に酔っただけじゃ…ない…?
モウロウとしてるのに
敏感な自分が変に感じた
でもそれ以上考える気力も思考力も
奪われていた