失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




彼は言葉に詰まりながら

僕にこんな提案をしていた

「あの…もっと…率直に…話しがし

たいんだけど…」

「うん…それはそうだけど…」

「もう…来てはくれないの?」



来て欲しい…?

ほんとに…僕に?



「あの…僕に気を遣って言ってくれ

てるんだったら…もう…やめて」

僕はこの前から言いたかったことを

初めて口にした

「もう…あなたは人に左右されちゃ

ダメなんだ…そんな時間を過ごしち

ゃいけないんだよ」

彼はまた沈黙した

「僕はあなたに曖昧な決断はして欲

しくないんだ…だって…」



だって

もう残された時間は…



「うん…わかってるよ」

彼が口を開いた

「わかってるから君と話がしたい」



そう…なの?

僕は電話口で目を閉じた

わかってるんだ

信じていい…んだね?



「その言葉…本気に…するよ?」

僕は重いよ…わかってるの?

そんな気持ちを込めて僕は言った

「わかってる…っていうか…わかっ

たんだよ…君が帰ってからね」

「帰ってから?」

「そう…君がいなくなってから…私

も気づいた…だからもう一度…会っ

て話そう」



公衆電話がピーピーとカード残金の

残り少ないのを知らせてた



「じゃあ…切れちゃうから…今日は

ありがとう…本当に来てくれる?」

「行くよ…約束する」

「そう…良かった…」

「身体気をつけてよ」

「うん…君もね…おやすみ」

「おやすみ」



電話を切ると母が僕を見て

うんうん…とうなずいていた



つながってる

まだ…切れてないんだ

兄と僕は





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