失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
びっくりした
びっくりして言葉が出なかった
「私も…驚いてる」
彼はさも可笑しそうに言った
「こんな気持ちになったことも…こ
んなこと口にする自分にもね」
「ど…ど…どうして…?」
どもりながらそれしか出なかった
「…愛されてるのは…しあわせなこ
とだから」
彼は夢見るように答えた
「私はここで愛のない肉体関係と愛
のある医師からの手当てを体験した
…両方私には必要だった…でも君と
逢って私は確信した…両方一緒に欲
しいってね…オールインワンが良い
…限られた生ならそんな愛の中で死
にたい」
清々しいほどの潔さで
彼はそのことを言いきった
「だ…だ…だって僕たち…兄弟…だ
よ…そんな…」
「半分ね…私たちは半分は他人だ」
「なんで知ってるの?」
誰がバラしたんだそんなこと?
「父…から聞いたよ…厳密には君の
お父さんだけど」
話したのか…なんでだよ
親父の後ろめたさってヤツか
いろいろと気が遠くなりそうだった
「今から君以外の誰かとここまでの
関係になれる可能性を考えてみて」
彼は真面目な顔でそう言った
「それは…そうだけど」
「時間がないのを理解してくれてる
って思っていたんだけどな」
その言葉に僕は
なんの反論も出来なかった