失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




夜もふけて寝る時間になった

彼は移動しやすいようにベッドで

僕は片付けやすいように布団で

それぞれ寝るように準備していた

寝る支度をして彼はベッドに入る

そして僕は約束どおり

彼のベッドに潜り込んだ



抱き合っていちばん怖いのは

兄が過去を思い出すこと

でもこの行為は今の彼の唯一の望み

性欲じゃない

人の肌に触れていたい

抱きしめられたい

抱きしめたい



とてもシンプルで純粋な欲求

それが彼の言った“肉体関係”

の意味だったと知った



「に…肉体関係っていうから…した

いのかと思ってた」

「でもこれも身体のことだし…」

「いや…ふつうそれ肉体関係って言

わないし」

「男同士で布団の中で抱き締めあっ

たらもう十分肉体関係だって」

「そ…そりゃ…そうかもだけど…」

「たぶん…セックスより気持ちい

いって思うんだ」

「抱き合ってるうちに…したくなる

かもよ?…いや…絶対したくなる」

「その時はその時…あ…君の性欲の

こと考慮に入れてないな…ごめん」

「僕はしません…絶対しないから」










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