失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
そのフロアの記憶はそこまで
暗い階段を支えられておりてく
どこから入ったのかもわからない
ドアをそいつがあける
なんの…ドア…?
どこかでわかってる
これから…犯されるんだ…
男の黒い革ジャンの軋む音が響いた
変な暗い部屋
カビ臭い
ジッポのシャキンという音がする
タバコの煙
マットの上にエアコンのリモコン
そいつが電源を入れる
「気持ち良いだろ?頭がぶっ飛んで
なんにも考えらんなくってよ」
「…」
目を閉じてマットの上で
壁にもたれてうなずいた
「お前…エロいなぁ」
この部屋に入ったときから
"君"から"お前"になってる
「初めてじゃねぇよなぁ…抱かれん
の慣れてんじゃねぇのか」
隣に腰をおろしそいつも壁にもたれ
ながら僕の肩に腕を回し
もう片方の手で僕の身体を
なで回した
そのイヤラシい手つき
されてる自分がイヤになる
でも身体は反応してる
「淋しくて死にそうなときは連絡し
ろよな…俺が気持ち良くしてやるか
ら…」
男は僕の股間に指を這わせた
「たまらないんだろ?」
「…あぁ…たまらな…い」
僕の耳元でささやく
「お前さぁ…あの店で初めて見た時
からさぁ…俺わかってたんだよねぇ
男に抱かれてるって」