失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
不意に隣から彼の声がした
「ん…あ…目さめた?」
彼は寝ぼけながら目を開けると
隣で彼を眺めてた僕に気づいた
「おはよ…起きてたよ」
起きてくれたのが嬉しくて
僕は口元が緩んでいた
「よく眠れた?」
と彼が僕に聞いた
「ぐっすりね…腕枕がいつ外れたの
かもわかんなかったよ…全然」
「私も良く寝た…なんだか落ち着く
…君といると」
彼が目を細めて天井を向いた
「ずっと…家族だったからね」
「ああ…すごいな…身体って忘れな
いんだ…」
彼も覚えている
それはまるで諸刃の剣のように
「記憶がなくなって家族の誰かとこ
んなふうに居られるなんて…予想も
してなかった」
彼はしみじみとそんなことを言った
「君が私を好きでいてくれたから」
だめだよ
そんなこと…言ったら
僕は気づかれないように
ゆっくりとうつぶせになった
最後まで自制できるのかよ…
僕は自分が信じられなかった
あなたに…キスしたい
思わず枕に顔を埋めた
そしてその枕を抱きかかえた