失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




それからしばらくして

父と母は昼食を摂りに行った

僕は病室で彼の寝顔を見ていた

少しして彼がうっすらと目を開けた

「…ん」

「目…覚めた?」

「ああ…なんか…話し声がしてた?」

「うん…聞こえてたの?」

「なんとなくね」

「親父と母さんが来てる」

「あ…そうなんだ…起こしてくれれ

ばよかったのに」

「母さんが起こすなって」

「そうか…悪かったね…」

「いいんだ…母さんは寝顔が見れて

幸せそうだったよ」

「もう帰っちゃったの?」

「ううん…いまお昼食べに行った…

すぐ帰ってくるって」

「そっか…ならこのまま起きていよ

う」

「そうだね…そろそろ僕達も昼飯だ」



病院の昼食が運ばれてきた

彼はもうそんなに食べないので

僕が余りを食べてそれで終わる

配膳が始まる時間の独特の匂い

僕はこれがあまり好きではない



「ごめんね…いつも残りで」

「あ…いいよ…そんなに沢山食べて

も太るだけだし…それにほとんど僕

に回ってくるじゃん」

「君…太るかなぁ」

「クスリで身体壊してから…なんか

食欲が控えめでさ」

「いいのかな…」

「特に病気とかになんないからいい

んじゃないの?」



そんな話をしていると

またドアにノックの音がした

「ただいまぁ…あ…起きてた」

母がまたドアから顔を出した

彼を見た顔がほころんだ

「こんにちは」

彼…兄が二人を見て挨拶した













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