失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】




彼の夜中の付き添いも

母と僕で交代になった

疲れているのに独りで部屋に居ても

椅子に座ったまま寝ていたりする

明け方暗いうちにふと目覚め

ああ…ここで寝ちゃったんだな

とかぼんやり思いながら

少し覚めた頭で彼のことを考える



いつか来るその時には

きっと彼の父親が迎えに来る



そのことは今の僕に

安らぎを与えてくれる

あんなに嫉妬して恨んで

殺したいほど憎んでいたあの男が

今の僕には天使の代わりなのだ

祈る必要もないほど

僕には確信がある

それくらい彼に償ってくれ…と

少し意地悪な気分にもなるけど



死は良いものでも悪いものでもない

この世に未練を残す人もいれば

この世から解放される人もいる

どう生きたかがその時死を彩る

そんなふうに思った

クスリで苦しみぬいて気を失った時

僕は意識だけになっていた

精神の崩壊もなく禁断症状も消え

穏やかな静寂があった

それが彼にもおとずれる

記憶も何もかも取り戻して

それでも最後の僕との生活を

幸せに思ってくれるだろうか

思ってくれるね

きっと





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