失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
病室に到着した時には
彼の痙攣は治まっていた
点滴のチューブが彼の腕に
1本だけ繋がっていた
母の顔も思ったより落ち着いていた
優しい母がそれよりも優しい顔して
パイプ椅子に座って
じっと彼の眠ってる顔を眺めていた
「おつかれ…お兄ちゃん落ち着いて
るわよ…」
病室に入ってきた僕を見上げて
母は微笑んだ
「どんなだったの?」
「うん…急に全身に痙攣が始まって
ね…3時くらいかな…先生呼んで痙
攣止める注射して…すぐ治まった…
それから点滴始めて…中に痙攣止め
の薬入ってるって」
「そうだったんだ…驚いたね母さん
…前にも1回あったんだ」
「そうなの…でも早く治まって良か
った」
「替わるよ…家で少し寝たら? タ
クシー待っててもらってるから」
「ありがとう…そうするわ…」
あと2…3日という話は
彼の前ではしなかった
意識がなくても耳が聞こえてる
母を玄関まで送る
「これに乗って帰ればいいよ」
「ありがと…じゃ…あとお願いね」
「うん…なんかあったらすぐ電話す
るし」
「うん…あなたも無理しないでね」
「わかってる」
見送って一人で病室に戻った